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女性特有のうつ病

月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder : PMDD)

日本では、「月経のある女性の約70~80%が月経前に何らかの症状がある」(日本産科婦人科学会)とされ、症状によって月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)と月経前不快気分障害(PMDD)に分けられます。

月経前症候群(PMS)は抑うつ気分や身体的症状等が表れますが正常範囲です

月経前3~10日間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものを月経前症候群(PMS)といい、古くから知られています。 精神症状としては、抑うつ気分、怒りの爆発、いらだち、不安などがあり、身体症状としては腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹や乳房の張りがありますが、PMSは正常範囲のもので、一般的に身体症状が優位に表れます。

月経前不快気分障害(PMDD)は重度の精神症状が優位です

これに対し、月経前不快気分障害(PMDD)は次のような重度の精神症状が優位に表れます。 〈月経前不快気分障害の精神症状〉
  1. 突然悲しくなる、涙もろくなるなど感情が不安定になる
  2. 著しいいらだたしさ、怒りがある
  3. 著しい気分の落ち込み、絶望感がある
  4. 著しい不安や緊張を感じる

どれも日常生活に障害をもたらすような症状です。月経前に限ってこのような症状がみられる場合は、精神科で治療を受けましょう。 治療はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ剤で行います(日本では治験段階ですが、アメリカではPMDDの治療薬として認可されています)。

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周産期・産褥期(産後)うつ病

「周産期」とは、妊娠22週から出生後7日未満までの期間を指します。「産褥期(さんじょくき)」とは、出産後、母体の生理的変化が非妊娠時の状態に回復するまでの期間を指し、通常6~8週間とされていますが、個人差もあります。

これらの時期にうつ病が起こりやすいことは昔から知られていましたが、最近の日本、イギリス、スウェーデンの研究もこのことを明らかにしています。

周産期の女性はうつ病になりやすい

「マタニティーブルーだから……」と決めつけないで、気軽に受診してください

妊娠・出産を経験する女性は、わが子が誕生する喜びで誰もが幸せになると一般に思われています。
しかし、妊娠や出産をした日本人女性の死因の1位は自殺です。その自殺の原因は、うつ病を中心とする心の病であることが最近の調査や研究などによってわかってきました。

国立成育医療研究センターを中心とする研究チームが、2015~16年にかけて、妊娠中から産後1年以内に亡くなった女性357人について調査したところ、そのうち死因としていちばん多かったのが自殺で、少なくとも102人(約28.6%)だったことがわかりました。死因の2位以下は、がん、心疾患、脳神経の疾患、出血と続きます。

周産期の女性と自殺との関連について最初に発表したのは、東京都監察医務院と順天堂大学による共同研究(2015年)でした。2005~2014年の10年間で、都区内で自殺した妊産婦は63例(10万人あたり8.5人)あって、その内訳は妊娠中が23人、産後1年未満が40人の合計63人でした。そのうちの約3分の1が、産後うつ病にかかっていました。

一般の方がうつ病にかかる割合は3~7%ですが、産後うつ病にかかる人は10%と、1.5~3倍も高くなっています。出産直後のいわゆる「マタニティーブルー(出産後うつ症状)」は、出産女性の半数以上がかかるといわれるほど、誰でもかかる病気です。そのマタニティーブルーは、一般に出産後数日後から始まって一か月以内に治まります。
だからといって、「自分の体調が悪いのはマタニティーブルーだから治る」と決めつけないでください。心や体の不調が続く時には、産婦人科やかかりつけ医、自治体の相談窓口、当院にご相談ください。

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周産期に自殺する女性の傾向

日本人の周産期自殺率は、10万人あたり8.7人(2005~2014年に自殺した63人を対象)です。イギリスの同じく2.3人(2009~2013年の101人)やスウェーデンの同3.7人(1980~2007年の103人)と比較して、数倍以上も高くなっています。

日本で2015~16年に自殺した102人の自殺時期による内訳は、妊娠中が3人で産後が99人と、出産後に集中しています。産後に自殺した母親のうち92人については、約半数が35歳以上で、65%が初産だったという傾向も明らかになりました。

周産期の方がいらっしゃるご家族、とくに妊娠された方が「高齢」「初産」である場合には、周産期のうつ病対策を考える必要があります。

周産期うつと女性のホルモンとの関係

出産を境にお母さんの体内でホルモンが大きく変化するのは、赤ん坊を育てるためです

妊娠から出産にかけての女性には、体の中で大きな変化が起こります。

女性が妊娠すると、エストロゲン(卵胞ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンのほかに、胎盤からはヒト絨毛性ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)などが分泌されて、出産に備えます。
ところが、出産を期にそれらのホルモンは一気に激減します。たとえば、エストロゲンが減少すると、乳汁分泌が始まって、子育てに適した体に変化します。

そのようなホルモンの急激な変化が、女性の体や心に影響を及ぼして、うつになりやすいと考える医学研究者もいます。また、出産や育児にともなう心身の疲労や脳内神経伝達物質の変化も関係すると指摘する研究者もいます。諸説ありますが、周産期うつ病の詳しい原因はわかっていません。

周産期うつ病になるきっかけや原因

まわりの方のフォローと協力も大切です

周産期うつ病の引き金になるのは、心身の疲労、ストレス、夫との関係など外的な要因も関係します。 たとえば、以下のようなきっかけで周産期うつ病になった方もいます。

  • 心身の疲労 授乳や育児で睡眠不足のうえに家事の疲れ。夫は仕事で忙しく、核家族で助けてくれる人はいない。
  • 子どもが可愛くない 夫が「可愛い」と言わず、可愛がらない。望まれなかった子どもではないかと思ってしまう。
  • 可愛く思えない。
  • 夫の不誠実な言動 夫の浮気。「おれは稼いでいるから、おまえは家事、育児をやれ」と、夫が妻をいたわらない。
  • 病気 子どもの先天的な病気に悩む。本人の病気。授乳のためにうつ病治療薬を中断して症状が悪化。

これらをひとりで悩んでいても、心のつらさは軽くなりません。
まず、夫に相談して、協力を頼みましょう。さらに、自治体や民間の「子育て相談」窓口、実家の親戚、友人などにも相談してはどうでしょうか。

周産期うつ病のサインにご注意

まわりの方も気づいてあげてください!!

妊娠うつは、妊娠期間中に発症します。産後うつは、出産後1~3週間後に出る傾向が強いのですが、出産後数か月から1年以内に発症したケースもあります。
周産期うつ病の症状は、うつ病と同じです。次のような症状が2週間以上続く時や、症状が激しい時は、専門家にご相談ください。

〈周産期うつ病の症状〉
  1. 寝付きが悪く、深夜や早朝に目が覚める。
  2. 食欲がなく、痩せる。
  3. 気分がゆううつだったり、イライラしているように見える。
  4. 見るからに疲れていて、言動が弱々しい。
  5. 感情の起伏が大きくなって、突然、泣き始めたり、怒ったりする。
  6. 動作がゆっくりになり、家事や仕事の要領が悪い。
  7. 集中力が低下して、自分で判断できない。

これらの症状がなくても、自殺をほのめかすような言動があれば、できるだけ早めの対応をお願いします。

「妊婦の心」が「子どもの心」に影響する

元気な赤ちゃんを育てるために、お母さんはしっかり休んで!!

お母さんと赤ちゃんは、一心同体のように密接な関係で結ばれています。 妊娠中のお母さんが不安やストレスを抱えていると、赤ちゃんに情緒の障害が表れる可能性が高いと海外の研究者が報告しています。とくに、産後うつよりも、妊娠うつのほうが、赤ちゃんに影響しやすいそうです。それは、“ストレスホルモン”といわれるコルチゾール(副腎皮質ホルモン)が母親の体内で多く分泌されて、胎児に影響するからだと考えられています。

また、産後のうつがきっかけで親が精神的に不安定になってお子さんを虐待すると、お子さんに解離性障害や境界性パーソナリティ障害などの重度の精神障害が起きると指摘されています。

周産期の女性がひとり悩んで、「私はダメな母親」「弱い親」などと自分を責める必要はまったくありません。 周産期うつは、女性なら誰でも起こりうることなのです。
つらかったら、配偶者やご家族、友人、自治体に相談して、少しでも心身が楽になる方法を探してください。 いま、お母さん、あなたに必要なのは休養と治療です。
当院も、お手伝いします。

周産期うつ病の治療法

赤ちゃんに負担をかけないように!!

周産期うつ病の治療は、うつ病と同じように、投薬やカウンセリングなどの精神療法による治療を行ないます。治療薬は、一般のうつ病と同じように抗うつ薬、抗不安薬が主体ですが、胎児や母乳に移行する薬としない薬がありますので、赤ちゃんの安全のために精神科専門医とよく相談しましょう。

診断や治療などについて不安やご相談がある方は、ご本人はもちろん、ご家族でも構いませんので、当院にご相談ください。

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更年期うつ病

女性の体は、妊娠時期を除いて、体内で分泌される女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の影響によって、大きなリズムが2つあります。ひとつは毎月のリズムで、もうひとつは一生を通じての長期のリズムです。

閉経前後から女性ホルモンは急減します

心と体のアンバランスが起きやすいので気をつけて下さい

妊娠できるように成長した女性は、卵巣から卵子が排卵されて妊娠しやすくなり、月経によって次の排卵・妊娠のための準備が始まります。月ごとのリズムを整えているのが女性ホルモンです。月のリズムで、女性の心身は、イライラしたり、快調になったり、基礎体温が上下したりします。

女性の心身と月のリズムがあるのは、私たちの生命の祖先が海中で進化する過程で、月の引力や満ち欠けの影響を大きく受けたからだという説があります。

女性の一生のリズムは、エストロゲン(卵胞ホルモン)が増えてくると月経が始まり、妊娠しやすい20~30代は女性ホルモンの分泌量が最大になります。
ところが、閉経前後の更年期になると、妊娠しなくてもよくなるので、女性ホルモンが急激に減少します。それまで女性ホルモンでバランスがとれていた心と体はアンバランスになり、ストレスや、子供たちの独立や親の介護から解放される“荷下ろし”などの環境要因が重なると、よけいに不安定な状態になってしまいます。
このとき、更年期うつ病が起こりやすくなります。
更年期うつ病の症状には、抑うつ気分や意欲の低下、肩こり、腰痛、不眠、頭痛などがあり、更年期障害とよく似ています。

精神的に不安定な状態が2週間以上続いたり、「変だな」と感じたりした時は、まずご家族に相談してください。 そして、早めに精神科専門医に相談されるのをお勧めします。

女性のうつ病は40歳代がいちばん多い

マイペースで人生を楽しみましょう

女性の更年期うつ病は、個人差はありますが、45歳頃~55歳頃に起こります。
実は、女性のうつ病は40歳代がいちばん多く、60歳代、50歳代と続きます。

  女性のうつ病の年代別患者数 男性のうつ病の年代別患者数
ワースト1 40歳代:約16万人 50歳代:約11万1000人
ワースト2 60歳代:約13万7000人 40歳代:約10万9000人
ワースト3 50歳代:約12万8000人 30歳代:約 9万1000人
ワースト4 70歳代:約12万6000人 60歳代:約 7万6000人
ワースト5 30歳代:約 9万1000人 70歳代:約 5万7000人
ワースト6 80歳代:約 7万4000人 20歳代:約 3万1000人
ワースト7 20歳代:約 5万7000人 80歳代:約 2万9000人
ワースト8 20歳未満:約9000人 20歳未満:約8000人
小計 約78万1000人 約49万5000人
合計 約127万6000人

年代別の自殺者数(「平成30年中における自殺の状況」厚生労働省・警察庁)をみても、女性の自殺者数は、50歳代(1135人)、40歳代(1094人)、70歳代(1055人)の順で多いのが実情です。
自殺者とうつ病の関係は、はっきりとはわかっていませんが、自殺者のうちうつ病だった人は「約42%」(警察庁統計)というデータがあります。
とくに見落とせないのは、うつ病患者さんの4人のうち3人は医療機関で治療を受けていないということです。

うつ病が深刻なのは、「死にたくなる病」だからです。
「マタニティーブルーだから」「更年期障害だから」と楽観視しないで、早めに当院にご相談ください。 私たちは、あなたの味方です。

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「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」の患者数

厚生労働省「患者調査」(2017年)より